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ベテラン社員の生きる道

前回は、『「組織の強さに妥協しない」という戦略』というテーマで書かせていただきました。そのコラムの中で、「事業を起こしたことがない人に事業を起こす後輩を育てることは難しいし、クリエイティブな課題解決提案営業をしたことがない先輩の元でクリエイティブな営業は育たない」という、ベテラン社員の能力や固定観念が制約条件になってしまうことに触れました。

年功序列の組織ではありがちなことで、この問題にどう向き合っていけば良いか?
ベテラン社員は、この点を踏まえ、自身の仕事の仕方をどう考えていけば良いか?
ということについて書いてみたいと思います。

そこに未来があるかもしれない


 先日、町おこしの事業企画をディスカッションする場に参加する機会がありました。その町は過疎化が進行し、街の宝である「温泉」を活かして来訪者を増やす施策を検討しています。そこに、大企業の次世代リーダーたちが企画案を提案するという場面です。

 一つのチームから「eスポーツ」を活かしたイベントを軸に「温泉x eスポーツ」で町おこしをしたらどうかという案が出てきました。私もeスポーツには詳しくないので、イメージが湧きません。シューティングゲームやサッカーゲームのファンが一堂に介しゲームとリアルイベントを行うという企画で、そういうイベントは全国の過疎地でも数例行われているようです。

 審議をしている町長や商工会の会長は何かヒントはないかと必死に模索されていますので、前向きに検討しようとされているのですが、「そのようなマニアのするもので町おこしはできないのではないか?」と思えてしまいます。それは自然なことだと思いますし、私自身も最初に話を聞いた時はそう感じました。

 プレゼンをする側の立場に立つと、「こういうゲームで企画をすると街と親和性もあるしうまくいく可能性が高い」と具体案を示したり、過去のイベントを実施した自治体にヒアリングをかけて「年配の方を含む参加者がどのようにeスポーツにハマっていくのか」という具体例を示すことで、年配者にもイメージが湧く臨場感のあるプレゼンにする点は不足していたと思います。しかし、ここで大事なことは、「自分にはよくわからないことを必死に語っている若者が目の前にいる」という事実です。年配者に求められるのは、「そこに未来があるかもしれない」と探究する姿勢です。

「若者が必死に語っている」からと言って必ずそれがいいものであるとは限らないし、実際に具現化をしていくためには、具体性のある企画に落とし込んで実行し、幾多の壁を乗り越えていくことになるでしょう。しかし、大事なことは試してみること、それが本当か実践をして検証する姿勢でしょう。そのディスカッションの中では商工会の会長から「私は可能性があるのであれば試したほうが良いと思う」という意見が出て、街の中にいる推進派の若者を中心に試すことになりそうです。過疎化している町は多くの企業と同じくリソースに限りがありますので、何でもかんでもは試せないのですが、その中でも挑戦をしていこうという姿勢に可能性を感じました。

若手が一緒に働きたい存在になる



 何が言いたいかというと、このような未来を変えていくチャレンジに正解はなく、可能性を感じることにどう取り組んでいくかという姿勢が重要になってくるということです。ベテランが自分の理解の範囲、経験の中で物事を判断するようになると機会を逃すことにもなりかねません。可能性を信じて頑張りたいという若手がいるのであれば、「一緒に取り組んでみる」「ベテランの持つ見識を活かしてベテランなりの追求をする」ということが大事でしょう。

 現在、オリンピックが盛り上がっていますが、スポーツチームにおけるベテランの役割を考えるとイメージが湧くでしょうか?

 スピードも衰え、若い時のようにはプレーができなくなっていく中で、自分の強みに立脚したスタイルで戦う(得意技を活かす)。少しでも体力の衰えをカバーすべく科学的なトレーニングは継続する(継続的に勉強する)。常にフルでトレーニングをするのではなく、勝負所にピークが来るように適度な休養をとりながらコンディショニングをする(自分がやらなくて良い部分は若手に任せる)。劣勢になっても動じずに最後まで勝機を伺ってプレーをする(広い視野で状況判断し、勝利の可能性を高める)。そんなベテランプレーヤーはチームにとっては「精神的支柱」になるでしょう。

 また、どんな一流プレーヤーにもコーチの存在が重要なように、プレーヤーではなくコーチとして若手の活躍を支える役割もあります。今回のオリンピックでもメダリストの背後には優秀なコーチの存在が報道されていますが、自分では成しえない高みに挑戦する若手を応援する存在、若手が能力を最大限に発揮できるように若手以上に情熱を燃やして一緒に戦う存在は貴重ですね。

 ベテラン社員は「まだまだ若いもんには負けんぜよ」という心意気は大切ですが、自分の置かれた状況が変わってきていることを認識し、スタイルを変えていくことが大切です。そして、優秀な若手から「一緒に仕事をしたい」と思ってもらえる存在になるために何が必要か、自分の戦い方を見直して頂きたいと思います。

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