自律型組織へのチェンジマネジメント その4 (原則2:外的コントロールから自由になる)

【原則②:外的コントロールから自由になる 小欲ではなく大欲】

「外的コントロール」とは周りの目を気にすることです。上司からどう思われるか、恥をかきたくない、など人間には様々な感情が生じます。そして、このような感情によって本来すべき言動と違うことをしやすくなります。判断ミスの多くの原因は外的コントロールなのです。「成功したい」という気持ちも時にはミスを誘います。撤退すべき事業に固執をして大きな損失を出してしまったり、「勝ちたい」という気持ちが強すぎて社内で意地の張り合いをしている人もいます。こういった外的コントロールの影響を受けた言動は無駄に多くのエネルギーを消費し、組織のパフォーマンスを減退させます。組織メンバーが余計なことに気を取られず、すべきこと(対象)に100%意識を集中させている組織が自律型組織です。

 では、外的コントロールから自由になるにはどうしたら良いでしょうか?

結論から言うと、人が外的コントロールを受けるのは「自我」があるからです。「お金を儲けたい」「好きな人と一緒になりたい」「長生きをしたい」「健康でいたい」など、様々な欲があります。欲があるからこそ、外部の変化に影響をされてしまうのです。自分の欲をコントロールをすれば、他律に陥ることを防げます。シンプルに言えば、自分を利することを目的にした「小欲」ではなく、社会や他者を幸せにすることを願う「大欲」に意識を向けることです。スポーツで言えば、「勝ちたい」「負けたくない」という雑念に惑わされず、「目の前の為すべきこと」に意識を向け直すことをすることです。

若いうちは「儲けたい」「勝ちたい」という気持ちで頑張って成長することもありますが、人生の最終局面では「人を幸せにした人が幸せになる」という本質に収束します。組織も同じです。幼い組織では「顧客をだましても受注を取れば良い」という思想で成長している企業もあります。しかし、そのような発展は一過性で終わります。「世の中に存在する課題を解決すること」を追求し、サービスを生み出し、社会の変化に合わせて自らを変化させることがドラッカーのいう「顧客の創造」であり、マーケティングです。

 組織としての目的や存在価値は「儲けること」ではありません。「自社が儲けること」を追求し続けると、他社の利益を搾取しても、不正を働いても善になります。本来の組織は、「社会に価値あるサービスを提供することで、対価を得ること」「得た対価を適性に分配し、構成員が生計を立てること」「余った利益を再投資して、サービス価値を高めたり、新たな課題解決のサービスを生み出すことで存在価値を高めること」が目的です。そのような自然の循環を追求することで、企業は発展させていくべきなのです。

 個人主義は利己主義とは違います。個々人の意思や尊厳を大切にする思想であって、相互を尊重しながら、自分の意見も表明するチームワークのある社会を目指す考え方です。個人主義を貫き通すということは、自己の存在価値を高め続けることとセットでなければ成り立ちません。合理的な考え方で効率や付加価値を高めるのは、単に儲けを増やすためでなく、より安価に価値あるサービスを世に普及するためです。企業がシェアを伸ばす努力をするのも、競合他社より高い倫理観や誠実な事業運営をしている自社のサービスによってより顧客を幸せにすることを追求する行為で有るべきです。公正な競争の結果としてシェアが伸びるようにすることが大切であって、結果に過ぎないことを目的にしてはいけません。目的はあくまでも、「顧客の創造」と「顧客の幸福の追求」です。そして、その結果として「社員が幸せになること」です。

 社会の変化によって、自社のサービスが陳腐化した時にすべきことは、その時代にあったサービスの開発です。本来の目的を忘れ、顧客を騙して劣悪なサービスを提供するようになれば企業不祥事として三面記事を賑やかすことになるでしょう。そのような変化に適応する力は、全体主義で思考停止になった集団ではなく、個人主義で自由意志を持った集団の方に分があります。

 近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの精神は永続的な繁栄をもたらす基本的な考えです。「小欲」に捉われた時に「大欲」に意識を向け直す訓練は日常の小さなことからしていくと良いでしょう。意見がぶつかった時に「共通の目的はなんだろう?」と上位目的に立ち返ったり、顧客との取引でぶつかった時に、「両立できる道はないか?」と知恵を働かせるところに成長があります。「大欲」を満たすためには、ビジネスの知識やスキルを身につけて個々の存在価値を高めることも必要であって、実力をつけたものが自由に生きられる世界なのです。

余談ですが、ゴリラは家族というコミュニティーしか形成しません。一方で、サルは家族という単位のコミュニティーを作らず集団で社会を形成します。そして、人間は家族と社会の二つのコミュニティーに属するという特徴があります。この二つの集団に属する中で相容れない問題や矛盾を解消する営みの中から人は叡智を高めていったのだと思います。社会生活における「個」と、他者と共にある「個」は両立し得るのです。

本日の最後に、参考までに、組織の自律性と組織パフォーマンスの関係性を科学的に証明しようと挑戦しているケースを一つ紹介しておきます。

「マッキンゼー流 最高の社風のつくり方」(ニール・ドシ、リンゼイ・マクレガー著)」によると、組織のパフォーマンスを高める「働く人の動機」は「直接的動機(自律)」であって、「楽しさ」「目的」「可能性」であると言います。
「楽しさ」=仕事そのものから直接的に得られるもので、仕事が楽しければ苦は生じません。
「目的」=仕事の結果に価値を感じられることで、目的のためなら頑張れるかどうかです。
「可能性」=自らの将来に役立つという実感が得られていることで、キャリアアップに有効と思えば下積みも苦にならないでしょう。

 一方で、間接的動機は「怒られたくない(感情的圧力)」「職を失いたくない(経済的圧力)」などの、本来の仕事とは関係ない欲求から生じます。外的コントロールそのものです。「惰性」というのは、本来何をすべきかということを考えなくなり、思考停止のまま活動を継続してしまうことを言います。これが組織パフォーマンスを最も減退させる要因であるとドシは述べます。

 この直接的動機と間接的動機の度合いを計測し、企業業績との相関を見ると、直接的動機(仕事そのものから得られる動機)は業績を高め、間接的動機(外から働く力=外的コントロールの影響を受けた動機)は業績を落とすことが明らかになりました。リッツ・カールトンやホールフーズ、スターバックスなど好業績企業の社員は競合企業に比べて直接的動機で動いている比率が高かったのです。

 小欲にコントロールされた時に、小欲を無くすことが難しい場合、目の前の仕事に意識を向けて、楽しく没頭してみるのが良いかもしれません。

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