「わかる」を「できる」に変える 実践経営パートナー

『マネジャーの教科書』を発売いたしました

この度、
『 組織に「成長」と「成果」をもたらすマネジャーの教科書 』
という本を上梓させて頂きました。

 

 

この本を出版した背景を少し解説させていただきます。

◆何度も立ち返って学べる本


 近年、どうすればメンバーのエネルギーを高めることができるのか、どうすればなすべき仕事に100%エネルギーを注ぐメンバーで組織を満たせるのか、ということを追求して参りました。

 私のルーツは現場常駐型の実行支援コンサルティングにあります。経営課題解決を現地のマネジャーと共に実現していくコンサルティングで、半年や1年という期間で目に見える財務的成果を生み出すことが特長でした。会心のプロジェクト運営ができた時、そのプロジェクトでは前年の2倍の売り上げをあげ、社員総出で見送り感謝されたこともありました。人や組織には無限の可能性が眠っていると確信できた体験でした。しかし、そんな成功したかに見えた企業に数年後に訪れて様子を伺うと、次なる壁を乗り越えられていない、頑張っていた社員から次世代に引き継がれていない、後戻りをしてしまったというケースも出てきました。

 「組織作りに終わりはない」と言われますが、本当に長期的に繁栄できる企業を育みたい。そんな思いから組織づくりの探究を続け、後戻りをした組織の立て直しを行いました。その結果、短期的な成果を生み出すだけでなく、中長期的に発展する姿を見据え組織変革を推進する方法論を体系的に整備することができました。「方法論(メソドロジー)」と表現しているのは、単なる「手法」ではなく、「どのような考えで行うのか」という背後にある考え方とセットで身につけていくことが大切だからです。

 多くの企業では、「手法の伝承」は行われるのですが、この目に見えない本質的な考えが継承されないことにより、組織力が停滞します。マネジャーが自学自習でも本質を学びやすいように、見出したメソドロジーを体系的に整理し、何度も立ち返って学べる本を用意しよう、ということで執筆いたしました。出版社からは、「すぐに使える手法じゃないと売れないから、そういう本を書いてください」という依頼がありましたが、「それでは本物を追求するマネジャーの助けにはならない。大きな責任を背負い、思い通りに動かない組織を抱え、苦労の絶えないマネジャーの一助になる本であれば執筆させていただく」ということで、本書を書かせていただきました。

 4月からマネジャーになる方にはもちろん、新天地でマネジメントのあり方を見直したい人、新天地でなくともマネジメントをアップデートしたい方、経営者として組織力を高めたい方、などなど多くの方に役立つ内容になっています。具体的な手法も掲載しているので実践に移しやすいですし、繰り返し読むことで考え方をインストールできる本になったと自負しています。是非、ご一読いただければと思います。

内容を少し紹介させていただきます。

◆ 人がエネルギーを無駄にする時


例えば、人はなすべき事にエネルギーを100%注ぐことができれば、大きな成果を生み出せます。年始に目標を立てるときは意気込んでいても、さまざまな日常の出来事に心を乱され、エネルギーを失っていくのが人間です。どうすればエネルギーレベルの高い組織を作れるのか、逆にエネルギーを無駄に浪費してしまう組織にはどのような特徴があるか、根本を理解する必要があります。

 ヒントは二千数百年前の「ブッダの教え」にありました。「ブッダの教え」というと宗教的、精神的なものと感じて敬遠される方もおられるかもしれませんが、多くの人がイメージする仏教の教えとは違っていて、とても合理的で実践的な教えです。例えば、「神様のように目に見えないものを信じるな」と云う教えがあったりします。

 「ブッダの教え」が目指すのは、苦しみから解放され、心の安寧を手にすることです。四苦八苦という言葉がありますが、人は「老いたくない」「死にたくない」「病気になりたくない」などと、思いが満たされないことで「苦」を抱えます。他にも、「手にしたいものが手に入らない」「手に入れた物が失われてしまって悲しい」「好きな人と一緒にいられない」など人生は「苦」と隣り合わせで、「苦」から逃れることはできません。

 ブッダは、「なぜ苦が生じるのか?」「それはどうすればなくせるのか?」という合理的な方法を弟子たちに説きました。まず人間の感情は自然と生じる生理現象なので止められないということです。歩いていて自転車にぶつかりそうになったら考える前に咄嗟に避けると思いますが、そのように反射的に感情は生じます。しかし、人間はその感情に振り回されます。悲しい時は「あー悲しい。あー悲しい」とその感情を集めて増幅してしまいます。怒っているうちにどんどん腹が立ってエスカレートした経験はないでしょうか?この感情の増幅を抑制するには、それに気づくこと(観察して冷静になること)と、それを手放して、本来の向き合うべきことに向き合うことが大切になります。

ブッダはこのステップを下図の「四諦(したい)」として示しました。
(苦)苦しい感情(四苦八苦)は自然に生じる。
(集)その感情に反応し、人間が集めてしまう。
(滅)自分が「苦」を集めてしまっていることに気づいて手放す
(道)苦を手放せる体質になる、苦の生じにくい生活をする

 

 

このブッダの教えは、成功している経営者などの間でも、自分の心を整える取り組みとして活用されるケースが増えてきています。組織やビジネスの規模が大きくなると、思い通りにならないことで「苦」を抱えやすいですし、成功すると謙虚さを失うこともありますが、そういうことを予防できます。

 経営者でなくとも、組織の中の対人関係や成果を出せないこと、昨今では、テレワークという環境の中で同僚との相談や連携が思い通りにできないことなどで「苦」を抱えます。そういった心の負担を軽くするためにビジネスパーソンの間で瞑想(マインドフルネス)に取り組まれる方もおられますが、マインドフルネスのルーツはこのブッダの教えです。よく「悟りを開こう」と難しいことを目指して失敗されている方がおられますが、大事なことは自分の心の観察をして、良くない感情(苦)を手放せるようになることです。

◆ 3つの過剰に注意せよ


「ブッダの教え」では、人が苦しむ原因として3つの毒に注意せよと言われています。それは、「欲」「怒り」「妄想」です。いずれも、人間の原動力にもなるものですが、「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」で、過剰な「欲」「怒り」「妄想」が苦を生じさせ、パフォーマンスを下げます。順番に見ていきましょう。

「欲」は人間のモチベーションの源泉でもあります。科学技術が発達したのも、社会が発展するのも人間の「欲」が根底にあります。それはそれで素晴らしいことなのですが、「意欲」が過ぎて「貪欲」「渇望」になり、なかなか思いが実現しないときに、無理に実現しようとすると不具合が生じます。スポーツでも実力以上のプレーを無理にしようとすれば怪我をしやすいですし、ミスに繋がります。ビジネスの成果も実力以上の結果を出そうとすると失敗をしやすいものです。結果が出ない時には、出ない理由があります。感情的にならず、その理由を探り、適切なアクションを見つけ実行していくのみです。どんなに大きな成功も今日1日の行いによって近づけていく以外に道はないことを理解し、やるべきことに集中できると結果を出しやすくなります。

 次は「怒り」についてです。怒りは人を動かすパワーという意味では大きな力を持っています。「義憤」によって社会改革が進んだりすることもありますが、怒りは「自分を見失わせ冷静な判断ができない、対話ができない」というマイナスに繋がることが多い感情です。思いが強いほど怒りは生じやすく、一生懸命仕事をしている人ほど抱えていたりします。この「怒り」に対処するには「観察」が有効です。押さえ込もうとするのではなく、「俺、怒っているな」と自分の状態を観察して理解することで冷静になること。そして、「なすべきこと」にエネルギーを向け直すと云う訓練でコントロールが効くようになっていきます。

 最後に「妄想」です。「こんな世界にしていきたい」という想像力から未来を切り開いていく力にできるものですが、現状認識を誤り、妄想によって間違った判断をしてしまうことがあるので注意です。例えば、「疑心暗鬼」になって人との関係を崩すということもありますし、「自信がない」という理由で必要な行動が取れなかったりします。成功するかどうかという未来のことをいくら考えても、答えはないのですが、「妄想」によって「不安」になり、「自信」を持てないのが人間です。これに対し、ブッダは「確証のないことは、自分で実践して確かめる」スタンスの大切さを説いています。ブッダ自身の教えに関しても、実践しなければ「本当にそうだ」とは分からないものだ。「鵜呑みにするな」と云う教えです。

どうすれば「苦」に気づいて手放せるか、なすべきことにエネルギーを向けて組織の力を発揮することができるのか、それが本書のテーマです。多くのマネジャーの一助になりますように!

「参考:個人的な欲に気づき制御する」

SNSでフォローする