「わかる」を「できる」に変える 実践経営パートナー

受援力を高める

今回は私のアメフトの経験も交えて書いてみたいと思います。

(1)選手とコーチの適切な役割分担とは


チームスポーツと企業の共通点は、役割分担をして一つの目的に向かうことにあります。アメリカンフットボールでも体の大きな選手、足の速い選手、器用な選手がそれぞれの持ち味を生かして、自分の役割を遂行します。また、体を鍛え肉体のメンテナンスが大切な選手と対戦相手の分析やゲームプランの立案に膨大な時間を費やすコーチとの役割分担も大切になってきます。コーチが作戦を立て、選手がその作戦を実行するという役割分担が基本で、この点も経営陣が大きな絵を描き、それに従って各組織が役割を遂行する企業組織と同じなのかと思います。

ベテラン選手は肉体が衰えてきますので、練習量を減らしてコーチの手伝いをしながらシーズンを過ごすこともあります。これは、プレイングマネジャーが存在する組織と似ている面があり、現場の情報を戦略に反映し、全体戦略を最前線の行動に落とし込みやすくするという効果があります。そういう中間層の役割もありますが、全体としては戦略を描くコーチ・経営陣と戦略を遂行する選手・現場最前線の社員、という役割分担になっています。

American Football players at strategy huddle

ご存知の方も多いかと思いますが、アメリカンフットボールにおけるオフェンスの攻め方は大きく分けるとボールを持って走るか、相手の陣地に送り込んだレシーバーにパスを通すかの2種類の方法があります。ディフェンス側はどちらで攻めてこられるか分からないので両方に備える必要があり、戦力・意識を分散させます。「ランプレーが来る」「パスプレーが来る」などと分かっていると、かなりの確率で止めることができるのですが、戦力を分散させられているので簡単には守れないようになっています。そのように人間心理にプレーが左右されるので、机上の戦略が実際に機能するかどうかを実践で確かめる作業が大切になります。

数多くのプレーの組み合わせがありますので、コーチも全てをチェックすることはできません。試合前にプレー合わせをする中でどういうときに迷うのか、「今の役割分担のルールだと、このプレーで攻められたときに判断に迷います」「このプレーで攻められたときは、こういうルールに変更することにしたい」などと選手の声を聴きながら、選手が迷わずプレーができるようになるまで役割分担や動きの調整をしていきます。選手は自分がしっかりと役割を果たすためにも、周りの人に相談をすることが責任感のある行動と言えます。

また、試合の中においても「自分たちが迷わず動けているか」「力を発揮させるためにどうすれば良いか」という肌感覚をコーチと共有し、「こういうプレーコールを入れて欲しい」と意見をしていくことは選手の役割になります(試合中のプレー選択はコーチの役割)。オフェンスの選手はディフェンスの選手の状態を肌で感じることができますので、「このプレーには相手も慣れて対応してきているので裏をかきましょう」「相手はランを止めに来ているので、パスを増やしましょう」などと、コーチにリクエストを出します。もちろん、客観的に見ているコーチにも分かることですが、コーチにとっては選手の感覚は貴重な情報源で、選手の声も参考にして総合的に判断をしています。

強いチームはそのようなコミュニケーションが取れていますが、分業体制はマイナスに作用することもあります。それは選手が「コーチの戦略に従っていれば良い」という安易な考えに陥り、考えなくなってしまうことや、「戦略が悪い」とコーチを責めて関係性を悪化させてしまうことから生じます。

(2)失敗しないための“受援力”を磨く



これを企業活動に当てはめて考えると、似たようなケースも目にします。「上司に求められたことを遂行するのが自分の役割だ」と、仕事を一人で抱え込んでしまって失敗をする人、商品開発部が開発した商品に弱点があるにもかかわらず、「それを売るのが販売の仕事だ」と相談をしない販売部隊などです。

マネジャーから仕事を依頼されたときは、「“自分の力だけで”成功させる」と考えるのではなく、「マネジャーを活用することも含めて、仕事を成功させることを依頼されている」と考えると良いでしょう。成功イメージが湧かなければ、マネジャーに相談をすべきですし、自信がなければ助太刀を求めることも責任です。チームとして戦いに勝つ上で自分がより力を発揮できるアイデアがあれば、意見をすべきです。

しかし、控えめな人、真面目に仕事をする人は「抱え込んで失敗する」という選択をしてしまうことがあります。「お願いをすると迷惑をかけてしまう」と感じる日本人は18%もいるというデータがありますが、気をつけないといけません。

お願いをすることが苦手な人は、最初は小さなお願いから練習をしていくと良いでしょう。「困っているから助けてほしい」ということを身近な人にストレートに伝えてみると、快く助けてもらえることを発見できるでしょう。頼られることはある意味嬉しいことですし、イキに感じてやってもらえます。ここで、「代わりに◯◯を提供するから」と見返りを提示すると、取引になってしまい、逆に協力を得られないことも起きます。堂々と依頼をすることが最大のポイントです。

中には、「スタッフに自分で考えさせたい、育成したい」と考え、敢えて抽象的で曖昧な仕事の発注をするマネジャーもいます。その期待には精一杯応えるべきですが、中にはマネジャーがスタッフの力量を読み誤っていることもあります。そういう場合は、「一緒に考えてほしい」旨を伝え、「壁打ちの壁」を務めてもらうと良いでしょうし、マネジャーではなく同僚に助けてもらうのでも良いでしょう。スポーツで言えば、実力が足りないときに、コーチや同僚に居残り練習に付き合ってもらうようなイメージです。

 また、この「求める力」が足りないのはスタッフに限った話ではありません。マネジャーがスタッフに仕事を依頼するときにも生じます。「スタッフが忙しそうにしているから」と仕事を依頼することができず、抱え込んでいるマネジャーは役割を果たしているとは言えません。

(3)顔を合わせたコミュニケーション


この問題はテレワークになるとより大きくなります。離れて仕事をしていると相手の事情が見えなくなり、遠慮が生じます。そして、家庭が背後に見え隠れすると、この傾向は強まります。
この問題を解消するために有効な方法を一つ紹介しておきます。それは、「顔を合わせたコミュニケーション」です。

以下の3つのタイプに分け、ペア間の「相談できる関係」を調べた調査があります。

・タイプ①…共同作業の際に、会話することも、互いの顔を見ることもできるペア。
・タイプ②…会話はできるけれど、互いの顔を見ることはできないペア。
・タイプ③…会話はできないが、互いの顔を見ながら書面の交換によって意思疎通できるペア。

①と③の結果は変わらなかったのですが、②のペア間の相談する力は極端に落ちたということです。「話すことはできても、互いの顔が見えない」と、チーム連携、パフォーマンスは落ちるのです。

顔を合わせて会話をした経験があると、その人との間で「求める力」は高まります。これはオンラインでのコミュニケーションでも顔見せで行えば同じ効果があります。タバコ部屋がなくなり、テレワークが進んだ世の中ですが、顔の見えるコミュニケーションの機会をうまく設けて、チーム・パフォーマンスを高めていきましょう。

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