「部下の意見を受け入れよう」と思ってはいるものの
「なかなか素直に受け入れられない」という事はよくあります。
成功したい気持ちが強いほど実践が難しくなるものです。
そこで、自分と違う意見と接したときに、
「具体的にどう反応するのか」という行動を設定しておくというコツがあります。
私は鹿島建設で構造設計をしていました。
構造設計(建物の骨組みの設計)では、
応力計算をして骨組みにかかる力を割り出します。
その力に対して、建物が壊れないように部材の強度や大きさを決めていくのです。
「部材を固く太くすれば良い」という事ではありません。
固くすれば、固くした部分に力が集まり、
また部材を太くしないといけないというイタチごっこに陥ります。
高層階で地震に遭遇されたことのある方は分かると思うのですが、
柔らかくしすぎると、変形が大きくなりすぎて住空間として機能しません。
法隆寺の五重塔がよく引き合いに出されますが、
バランスよくエネルギーを吸収できるように
しなやかで強い建物を設計するのが腕の見せ所です。
少し専門的な話になってしまいましたが、
ここで共有したいポイントは、
「構造設計という仕事も、他の仕事と同じように、正解が無い」ということです。
どういうバランスのとり方をするのか、そこには設計思想が必要になり、
デザインや設備の設計者とのコミュニケーションが取れていないと
良い設計はできないのです。
当然ですが、企業としてその設計品質を確保するための厳格な審査がありました。
この審査では厳しい質問が飛んできます。
正直、この審査はとても憂鬱なイベントでした。
実力がなかったこともあるのですが、まさにコテンパンにやられていました。
必要な検討ができているかどうかだけではなく、その設計思想を問われます。
「今回の設計ではどんな挑戦をしているのか?」という問いに
明確な意図を持って答えられるように取り組むことで、
自分を成長させられたという実感があります。
前振りが長くなりましたが、
ここに参考になるマネジメント手法があったのです。
鍛えて頂いた審査責任者の方は
審査結果の判定を三種類でなされていました。
「却下」「了解」「了承」です。
〇☓ではなく、〇を2種類に分けているのがミソでした。
「了解」・・・あなたの考えは理解しましたが、
「それでよし」とは思っていませんよ。
「了承」・・・あなたの設計は良いですね。承認します。
の違いがあります。
「了解」を頂くと、
「あなたは無難な設計をしましたね。面白みがないですね。
設計のクライテリアは満たしているので、駄目とは言いませんが、
それで満足していて良いものでしょうか?」
と言われたような気がしてしまいます。
審査を通した達成感はあるものの、
「どんな挑戦が考えられただろうか?」
と更に上の水準を考えることに繋がっていました。
現状に満足することなく、良い緊張感で仕事ができていたと思います。
承認しないと人は育ちません。しかし、承認ばかりでも人は育ちません。
これは、部下育成の一つのコツだと思います。
マネジメントの参考にして頂ければと思います。