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自律型組織へのチェンジマネジメント その10 (アプローチ5:フィードバックサイクルを回す)

【アプローチ⑤:フィードバックサイクルを回す】

 目標を活用する文化は、目標に対する進捗(自らの姿)を振り返る場で養われていきます。リーダーの教育ができていないと、目標を使っての尻叩きになり、リーダーが自分の思うようにメンバーを操縦しようとし、組織の自律性を奪うことになりかねません。目標の扱い方を学ぶべきはトップからで、まずは経営者が幹部と目標と実績について対話する場をしっかり成立させていくことが肝要です。

 自律型組織では、フィードバックを受ける人が自分のパフォーマンスを上げるためにフィードバックを求めます。自分に見えていない点はないか?自分と違う視点を参考にするために意見を求めます。自律できていない組織において、フィードバックは上司のためのものです。部下をコントロールし、動かすために活用されており、部下が外的コントロールにさらされます。

 定期的に進捗を確認し、軌道修正をするトラッキングは、形だけで言えば、「良い点(KEEP)」「改善すべき点(PROBLEM)」を整理し、「次にすべきこと(TRY)」を決めることです(KPT法)。そして、事実(雲が出てきた)を確認し、解釈(雨が降るだろう)を加え、決定事項(傘を持って行こう)を決めるような思考方法で正確に行うだけのことです。これが思い通りにできないのは、人間の性質によります。好き嫌いなどの私心(小欲)によって惑わされ、判断ミスをしてしまうのです。リーダーは私心を挟まず、「何が良くて何が悪いのか、次にどうすれば良いのか」にフォーカスをする訓練を積む必要があるのですが、これが言うは易く行うは難しで、できている人は多くありません。

 参考に、イスラエルの教育プログラムの事例を紹介します。イスラエルはユダヤ人が75%を占めますが、ユダヤ人の教育には定評があります。全世界で1,400万人しかいないユダヤ人がノーベル賞受賞者の20%を占めているのは、偶然ではないでしょう。人間としての遺伝子が優れているのではなく、能力を発揮させるためのノウハウや環境があると考えた方が正しいと思います。そのイスラエルで最も権威のある教育プログラムは「タルピオット」と呼ばれるもので、国策として軍と大学と産業界が連携して運営をしています。15歳くらいから生徒の選抜が始まり、候補者となった生徒は選抜試験を受け、合格をすると17歳から10年以上に亘り、座学と実地トレーニングを繰り返すというものです。

talpiot

 そのタルピオットの教育プログラムの一つの鍵は「自己認識(セルフ・アウェアネス)」を鍛える点にあります。「自己認識(セルフ・アウェアネス)」とは客観的に自分の状態や特徴を捉える力のことで、選抜段階から候補者がリーダーになれる人物かどうかを見極める視点として評価をされています。具体的には、グループ面談でディスカッションをさせた後に個人面談をし、その時の自分の様子を振り返らせると、自分の状態を捉えられているかどうかが分かります。自分がどのような心理状態で、どのようにすればもっと良かったかという改善点や、自分がうまくできていたポイントも自覚できていると良いでしょう。そのためには、「自分を良く見せたい」という欲を抑えて冷静に振り返れることが必須となります。

 そのような選抜試験を乗り越えて合格をした後も、生徒にはかなり多くのフィードバックを得る機会が設けられます。自分で振り返るだけでなく、指導教官からのフィードバックがあります。そして、生徒同士の相互フィードバックが何度も行われます。多様なメンバーの視点から意見をもらうことで、自分の特徴についての理解が進みます。メンター制度があり、自分に対する否定的な意見を前向きに解釈し、自分の成長の糧にしていく力を養う支援をしていたりもします。ユダヤ人が使用する言語はヘブライ語ですが、“ヘブライ”という言葉には「もう一方に立つ」とか「相対する」という意味があり、ユダヤ人は「もう一つの見方を探す」という特徴があるようです。自分の考えに固執するのではなく、多様な意見を戦わせながら知恵を磨いていくことがリーダーの重要な資質であるということです。

このようにフィードバックにより自己修正をする能力は実践を通じて磨いていくことができます。「状況(アウトサイド)の観察」と「自己(インサイド)の観察」の両方ができて初めて安定的に振り返りができると言えます。社内制度として、「一定のリズム」で何度もフィードバックサイクルを回す仕組みやメンターなど問題の受け止め方を支援する存在を用意すると良いでしょう。

 最後に、「一定のリズム」をどう設定するかを共有しておきたいと思います。結論から言うと「週次」のサイクルでフィードバックの機会を設けると良いでしょう。まず、自己の思考パターンを変えたり、マネジメントスタイルを変えるような本質的な成長をしたい場合は、隔週での取り組みになると、気がつけば元の思考・行動パターンに戻っていたり、成功確率がぐっと下がります。また、週次で取り組む効果としては、「当初の目的を見失わず、全社の大目標との繋がりを確認しながら反復する」ことで、組織全体の活動に対する理解が深まっていく、ということがあります。最近では、グループで活動状況を共有する社内SNSなども存在しますので、リーダーが音頭をとってチームで週次サイクルを回す方法を編み出してもらいたいと思います。

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