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自律型組織へのチェンジマネジメント その7 (アプローチ2:目的を再構築する)

【アプローチ②:目的を構築する】

 次に必要なことは、組織メンバーがエネルギーを向ける対象(組織としての存在価値や目的・目標)を明確にすることです。ビジョン・ミッションという言葉は組織によって様々な定義で使われていますが、定型的には「我々は何を目的とした集団なのか? 社会に提供する価値は何か?」「そのために向こう10年間はどのような山に登るのか?」「3年後には、具体的に何が実現しているのか?」という3つの問いに対する答えを明確にすることを行います。

 ビジョンの必要性は今更書くことではないかもしれないですが、ビジョンを設定することで、組織メンバーが「やらない行動を決められる」「やるべきことにフォーカスできる」という効果があります。毎月目標を設定し、決まった仕事をしていると、気を許せば同じ活動の繰り返し、成果は出ているようで従来と変わっていない、ということも起きてしまいます。忙しいようだけど、進歩がない状態を「アクティブ・ノンアクション」と言いますが、短期的な業績目標を達成することに汲々として、本来中長期的な成長に必要な行動がとれていない人や組織はまだまだ多いものです。

下図はマネジメントのトレーニングでよく活用される図ですが、マネジメントにおいて最も重要な活動領域は「第2領域(緊急性は高くないが重要な活動)」になります。第1領域は誰もが頑張りますし、そこを頑張っているだけでは競争には勝てません。意識的に第2領域の仕事に取り組んで、第1領域の仕事を減らすことがポイントです。悪い例をあげると、「仕事のプロセスを見直して、無駄無理のない流れを作る」という仕事は第2領域ですが、その仕事を怠った結果、「やり直し」「手待ち」「重複」と言った無駄な仕事を多発させ、その対応(第1領域の仕事)に忙しくなってしまうということです。


 またビジョンを作ることで、「予測可能な世界」の外側に出ていけるこという効果があります。現代のビジネスパーソンの課題だと思いますが、間違いないようにアウトプットをする習慣ができてしまうと、「今の社会環境・業界構造はこうだから、その中でこういう役割を果たそう」と、狭いフィールドの中での絵を描いてしまいます。フィールドを作り変える、ゲームのルールを変えるような発想で自分たちの「ありたい未来の姿」を描くことで、大きな可能性が生まれます。ビジョンは楽観的に描くと良いでしょう。

 ミッションで3年後の具体的な姿を描く際には、財務的な数値とその背後にあるビジネスストーリーを整合させていくことになります。「どのような商品・サービスをどのような方法で展開すべきか?」「そのためにはどのような技術開発をすべきか? 組織能力をつける必要があるか?」など、部門を超えての議論になります。このビジョン・ミッション創りに組織の核となるメンバーを参加させることが自律型組織を作る上でのポイントです。未来のあるメンバーが自分たちの将来の姿を思い描くことが重要で、定期的な勉強会を開いて、社会の変化、自社の特徴や歴史などを議論していくと、経営の視座も養われますし、組織の骨がしっかりしていきます。

 そういう議論を経ないと、いくら外部コンサルタントに依頼をして見栄えの良いビジョンを打ち出したとしても実現に向けて組織が動きません。文脈が理解できていない、腹落ちしていないなどの理由で経営と現場が乖離しているもったいない企業も目にします。大きな組織であれば、ビジョン・ミッションを示したのちに、その勉強会を各地で開催していくことも必要です。身近な事例を題材に対話をすることでビジョン・ミッションとの結びつきができていきますし、共通認識ができるまで対話は繰り返されるべきです。

 時間的余裕があれば、このビジョン作りをする前に核となるメンバーの「個人ビジョン」を描いてみるという工夫も有効です。「仕事人生において残りのキャリアで何を成し遂げたいのか?」ということを真剣に考えてみる機会は意外と少ないもので、考えるだけで価値がありますし、周りのメンバーの思いを知ることはチームビルディングにも役立ちます。企業によっては、「そんなこと考えたこともなかった」という反応をする幹部の方もいます。限られた命を大切に使って欲しいと思って取り組んでいます。

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