人材教育の前にやるべきことがあるのをご存じだろうか。間違った考え方のもと、人材教育を推進すると、企業にとってマイナス効果を生じさせることがある。
また、まったく同じ講師による同じ内容の研修カリキュラムを受講しても、なぜか、その成果には大きな差が生じることがある。いったい、何が人材教育の成果に影響を与えているのだろうか。
私たちは、どうしてもできるだけ早く、効率よく人材に成長してほしいと願う。そう願うことは間違いではない。新入社員がいち早く戦力になってくれれば、それはそれでかなりありがたいことに違いない。
しかし、人材教育に焦りは禁物。焦れば焦るほど、人材教育が生み出す効果は少なくなる可能性が高い。そのため、一度人材教育を止めてみることには価値があると言いたい。
もちろん私は人材教育を否定しているわけではない。人材教育をあきらめる必要もない。むしろ、積極的に人材教育に時間や予算を投じることで、営業力が向上し、顧客満足度が高まったり、ライバル企業を圧倒するような商品を開発することができるかもしれないと考えているし、私自身が人材教育を担当した企業では、実際に短期間の指導にも関わらず見違えるような結果が出たこともある。
だからこそ、より大きな成果が期待できる人材教育をすべきだと主張しているのである。
では、具体的にどうすれば、人材教育の成果がより大きなものになるのだろうか。
まず、ほとんどの経営者が抱く、人材教育についての誤解を正しておきたいと思う。
人材教育は、一人一人の「個人としての教育」と言うより、集団の中で活躍する「組織人としての教育」と言った方がいい。つまり、「組織人材教育」である。
「組織人材教育」というと、型にはまった紋切り型の人材を育てたり、組織でしか動けない人を育てるための教育だと誤解されかねないが、そのようなものでは決してない。
むしろ、個人の性質、強みや弱みを理解した上で、企業という組織の中でどのように自分を輝かせて、最大限、顧客を始め、同僚、そして企業にも貢献できるのかということを追求できる人材を育てることである。
人間が一人で出来ることは、所詮限られている。しかし、他者の力を活用することで、一人では土台無理だったレベルの成果を発揮することができる。
言い方を変えると「組織人材教育」とは、組織の中で適切な自分のポジションを把握し、その役割を果たしつつ、仲間と一緒になって、一人ではできなかった高みへと到達するために動ける個人を育てる教育、ということだ。
つまり、企業における人材教育のゴールは「組織の力を適切に使う力」を併せ持った個人を育てることである。
逆に、いくら個人としての力が優れている人材がいても、組織で動けなければ、組織が発揮するパフォーマンスには勝てないことが多い。
また、そんな優れた人材を採用できる可能性は少ないだろう。仮に採用できたとしても転職されないように気を遣うのも大変である。経営者にとっては胃に穴が開くほどのストレスを抱えることになりかねない。
であれば、凡人集団であっても、組織としてのパフォーマンスを発揮できる状態を作る方がよほど枕を高くして寝られるというものだ。
人材教育についてのよくある誤解が解けたところで、次に、どうすれば人材教育の効果が最大化できるのかという、具体的方法論をお話しよう。
方法論には、何をやるか、どのようにやるか、いつやるか、という要素が含まれる。今回は、いつやるかという点に注目してみたい。つまり、人材教育をやるべきタイミングについて、である。
そのタイミングとは、ずばり組織とそこにいるメンバーの現状の把握が終わってから、である。
そういう意味で、焦りは禁物と言ったわけである。
まったく同じ講師による同じ内容の研修を受けても、成果に大きな差が出ることはよくある。その差を生み出すのは、受講者である社員個人の意識や実力の違いよりも、受講者が組織の中で適切な場所、役割を与えられているかどうかという違いだ。
そのために、組織とそこに所属する主立った人材の現状把握が大切になる。
あなたは経営者として、御社が今、どのステージにあるか、客観的な指標によって把握しているだろうか。自社に対する主観的で誤った評価を抱いているとしたら、そもそもスタート地点がずれていることになる。これでは無事にゴールにたどり着く確率は少ない。
ぜひ、経営者には主観を排して、現段階での企業のステージにふさわしい組織のあるべき姿とのギャップを冷静に把握していただきたい。その後、必要に応じて、合理的かつ未来の企業の目指すべき方法性に合致する人材の配置転換や外部からの人材の登用などを行うべきだ。
まとめると、まずは組織と人材の現状を把握してから、人材教育すべきということになる。
現状と目指すべきものを正しく把握し、かつ正しいポジションに置かれて初めて、人は正しく成長しパフォーマンスを発揮できるはずだ。
逆に、間違った人材配置をしてしまい、すくすく伸びる可能性がある人材の芽を腐らせる罪は重い。間違いなく、その社員の人生での到達点に影響を与える可能性が高いと言っていい。
アメフトにたとえると、クウォーターバックに適した人間をオフェンスラインに配置しているとしたら、勝てる戦力があったとしても勝てるチームは作れない。
京都大学アメリカンフットボール部が日本一に到達できた最大の要因は、人材の特質の見極めと配置にあったと言っても過言ではない。
日本一になった年には、必ず「なんであの人がその役割?」と耳を疑うような抜擢があった。
キッカーがクウォーターバックに抜擢されるという身体能力の見極めだけでなく、
全く試合に出れない選手が主将に抜擢されたということもある。
人間の気質を見極めた監督のファインプレーだ。
本人に自分の才能はわからない。
本人に好きなポジションの希望を聞いてやらせているだけでは勝てるチームは作れない。
監督やコーチがその才能を見出し、適切なポジションに配置をし、その気にさせることこそが大事なのである。
ことごとくスポーツと経営は似ていると感じる。
十分な量だけ正しく努力すれば、確実にその成果が現れてくるから、面白い。
名監督としての経営者の力量が試されている。
そして、そんな経営者の現状把握ツールとして、組織変革診断を強くお勧めしたい。