先日、イスラエルの「タルピオット・プログラム」という教育プログラムの勉強会に参加する機会がありました。人口の少ないイスラエルでは、限られた人の中からリーダーを育てることが大変重要な課題となります。国策として、軍と大学と産業界が連携して運営をしているイスラエルで最も権威のあるプログラムが「タルピオット」です。15歳くらいから生徒の選抜が始まります。候補者となった生徒は選抜試験を受け、合格をすると17歳から10年以上に亘り、座学と実地トレーニングを繰り返します。開発をした製品が軍でどのように使われるのかを実地で検証するために軍で仕事をしたり、ユニークなカリキュラムとなっています。イスラエルはユダヤ人が75%を占めますが、ユダヤ人の教育には定評があります。全世界で1,400万人しかいないユダヤ人がノーベル賞受賞者の20%を占めているのは、偶然ではないでしょう。人間としての遺伝子が優れているのではなく、能力を発揮させるためのノウハウや環境があると考えた方が正しいと思います。その教育の特徴から学ぶべきことを一つ挙げるとすると、自己認識(セルフ・アウェアネス)を鍛えるという特徴だと感じました。
「自己認識(セルフ・アウェアネス)」とは客観的に自分の状態や特徴を捉える力のことです。タルピオットの選抜試験では、候補者がリーダーになれる人物かどうかを見極める視点としてこの「自己認識(セルフ・アウェアネス)」が重視されています。具体的には、グループ面談でディスカッションをさせた後に個人面談をし、その時の自分の様子を振り返らせると、自分の状態を捉えられているかどうかが分かります。自分がどのような心理状態で、どのようにすればもっと良かったかという改善点や、自分がうまくできていたポイントも自覚できていると良いでしょう。そのためには、「自分を良く見せたい」という欲を抑えて冷静に振り返れることが必須となります。
そのような選抜試験を乗り越えて合格をした後も、かなり多くの振り返り(フィードバック)の機会が設けられます。自分で振り返るだけでなく、指導教官からのフィードバックがあります。そして、メンバー同士の相互フィードバックが何度も行われます。多様なメンバーの視点から意見をもらうことで、自分の特徴についての理解が進みます。この多様な観点で客観的に意見をもらい、それを前向きに解釈し、自分の成長の糧にしていくことが重要なようです。ユダヤ人が使用する言語はヘブライ語ですが、“ヘブライ”という言葉には「もう一方に立つ」とか「相対する」という意味があり、ユダヤ人は「もう一つの見方を探す」という特徴があるようです。自分の考えに固執するのではなく、多様な意見を戦わせながら知恵を磨いていくこともリーダーの重要な資質なのだと思います。
ここまでで何が言いたいのかというと、
自己認識はやはりリーダーには必須のスキルだと思いますし、少し補足をしたいと思います。マネジメントは状況によってあるべき姿が変わります。チームメンバーの力量や気質、課題の難易度などに応じて軌道修正が必要になり、常に自分の姿を客観視して、自分を変化させることがリーダーには求められます。
例えば、部下に対する指導の仕方として「応援」「支援」「救援」という概念を紹介させていただいたことがありますが、立ち位置を使い分けるだけでなく、それぞれの立ち位置でのマネジメントがうまくいっているかどうかを感じ、自己修正をすることも必要です。
部下を成功させたいがために「救援」の立ち位置でのマネジメントをしすぎると、部下が上司に依存をしたり、自信をつけられないという事態になるかもしれません。(過干渉)
せっかく「支援」をしようと対話をしていても、思い通りに動かない部下にイライラしてしまうと、攻撃的になってしまうケースがあります。部下が萎縮したり、反発をして関係が悪化しては通じる話も通じません。(対立)
また、「部下に自立をしてほしい。任せたい」という気持ちから、「応援」の立ち位置に立つことがあると思いますが、目を離してしまうと、部下は人間の弱さに負けてしまうかもしれません。(無関心)
難しいところは、前向きな気持ちであっても、自分の気持ちに固執すると、逆効果になる行動をとってしまうかもしれないことです。やはり、自分や仕事の結果を客観視し、周りの人から意見をもらい、軌道修正をすることが必要なのだと思います。本人が気づかないこともリーダー間で、互いに意見をしながら是正ができる組織になれば大変強いと思います。