物語を紡ぐ

前回は歴史物語に関する話だったので、
今回も引き続き物語に関する話にしてみます。
経営には物語を紡ぐ能力が必要です。
セミナーに出ていても、面白く学べるのは理屈ではなく実例です。
では、読み進められる物語には、語り継がれる物語には何が必要なのでしょうか?

そういうことを学ぶには
物語を紡ぐプロフェッショナルたちに学ぶのが一番でしょう。

例えば、日本を代表する作家である村上春樹氏はどう考えているのでしょうか?

最近のベストセラーである「1Q84」を読まれた方も多いかと思いますが、
その作品の中で「編集者が作家に1つだけ書き直しを要求するシーン」があります。
そこで村上氏は小説に登場する編集者にこう述べさせています。

「天吾くん、こう考えてみてくれ。
読者は月がひとつだけ浮かんでいる空なら、これまで何度も見ている。
そうだよな?
しかし空に月が二つ並んで浮かんでいるところを目にしたことはないはずだ。
殆どの読者がこれまでに目にしたことのないものごとを、小説の中に持ち込む時には、
なるたけ細かい的確な描写が必要になる。
省いてかまわないのは、あるいは省かなくてはならないのは、
ほとんどの読者が既に目にしたことのあるものごとについての描写だ。

基本的にフィクションの小説は「今までに見たことのない世界を読者に見せる」
営みなので、これは村上春樹氏本人の小説を描く上での矜恃なのではないでしょうか?

我らが京都大学の後輩にも売れっ子の小説家はいます。
「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」を手掛けた万城目学氏です。
関西に縁のある人であれば、身近な県の描かれた小説があるので
それから手に取ってみると面白いと思います。

彼はエッセイ集の中で以下のように書いています。
「上手な文章とは、読みやすい文章である。試しに夏目漱石の本をめくってみる。
『小難しい』というイメージとは裏腹に、日本一の文豪の文章は極めて簡素だ。
一文一文が短く、すぐ『。』が来る。ゆえに、非常に読みやすい。
複雑な内容を伝えるのに必要なのは、難解な長文ではなく、
簡単な文章を粘り強く重ねていくことだ。」

これまた、実践している人ならではの指南力のある言葉だと思います。

 

自らの思い描く「誰もまだ見たことのないヴィジョン」を社員や株主に伝えるとき
経験の浅い後進に「自分たちの仕事の価値」を伝えるとき
「商品がもたらす恩恵やその根拠」を顧客に伝えるとき
相手の頭の中に色つきでイメージが湧きあがる描写ができているか
相手が理解できるシンプルな表現を、相手に伝わるまで積み重ねているか
チェックしてみてはいかがでしょうか?

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